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ファッションクロス特集 No.7

− 新進クリエーターがSHOPを出店するとしたら… −

今年9月に老舗ファッションビルのホワイトメイツ内に誕生したばかりのnara store…。ショールーム風セレクトショップというコンセプトどおり、東京を中心とした新進クリエーターの商品が集められていて、名古屋ではお目にかかれなかった旬なブランドも…。時にはデザイナーさんを招いてのオンリーショップや受注会も開いてしまうという、とっても個性的なお店です。実は、このお店のバイヤー兼代表の小川さんは、老舗百貨店での経験十数年という方なんですね。そして、百貨店時代に出会った若いクリエーターたちの商品の個性的な魅力にひかれて、是非こういうものをたくさんの人たちに紹介したいという思いから、nara storeというユニークなお店が誕生したのだそうです。
そこで今回は、9人の地元クリエーターの皆さんと一緒にnara storeさんにお邪魔して、小川さんのお話を直接うかがいながら、新進クリエーターが「小売り」までを視野に入れた時に直面しそうな問題や課題についてディスカッションをしながら、考えようということになりました。
shop出店にチャレンジしようとしているクリエーターの皆さんにはとっておきのお話、聞けたみたいですよ。

日時:2006年12月5日(火)18:00〜20:00
会場:nara store(ナラ ストア)
名古屋市東区泉一丁目14−23 ホワイトメイツ3F
講師:nara store(ナラ ストア)バイヤー/代表 小川孝智 氏
参加者:クリエーター9名・その他4名

*はじめに

 

小川:
nara storeバイヤー兼代表の小川です。よろしくお願いいたします。
今日ご参加の皆さんのプロフィールにつきましては、事前におうかがいしております。そこで、今日は“新進クリエーターがshopを出すとしたら…"
というタイトルで、実際にクリエーターが自らお店をやるとなったとき、その道筋で、いろいろなことが問題となってくると思うのですが、そうした問題点や課題について、私自身の経験の中からお話ししたいと思っています。
前半の1時間弱をお話に、後半を質疑応答や、今日こうしてせっかく皆さん集っていらっしゃるので、お互いの情報交換とかの時間に充てたいと考えています。
では、レジュメにそって、前半のお話を進めていきます。

 

『まずは小川さんのプロフィールから』

 

小川 :
まずは自己紹介を兼ねて…
今はこのnara storeというお店をやっているわけで、今年の9月にオープンして、朝の11時から夜8時まで、水・木・金は夜10時までやっています。アルバイトスタッフは、午後3時以降に入ってきますので、それまでの間は一人でこの店にいます。
ここで、ちょっとこれまでの自分の経歴についてお話しすると、学校を出てすぐに高島屋に入りました。日本橋のお店の婦人服の売場へ配属されて、カジュアルの催事の担当がスタートで、3年目にクリエーター売場へ、さらにインポートものの売場へ。平成8年の日本橋高島屋の改装担当に異動して、改装後はDKNYのブランドチーフ。その後、売場マネージャーになって、十年目で名古屋の高島屋の準備室の仕事に就きました。2000年3月の名古屋高島屋オープンから2年間、準備とあわせて3年ほど名古屋にいました。名古屋ではキャリアゾーンのマネージャーということで、ジルスチュアートや当時注目されはじめていたセオリーとかをやっていました。このあと新宿店のマネージャーになって、1年間キャリアゾーンを担当しました。
ちょうどこの頃に、大型店にストアーバイヤーを置こうということになってきて、私もヤングフロアのバイヤーになったんですね。それで3年、バイヤーをやって、ちょうど3年目に退社、独立して、このお店をつくりました。

 

『クリエーターさんとのかかわり』

 

小川:
実は、このバイヤー時代に、この店のきっかけとなるイベントを担当したんです。
"ショップ ザ プライムプラグ"というイベントで、新進のクリエーターの2週間限定セレクトショップを高島屋の中に作るというものでした。この仕事がとってもおもしろくなって、大手さんとの仕事より、ずっとずっと刺激的だったんですね。
百貨店のショップバイヤーとして、百貨店にブランドを導入する時には、他の百貨店との競合とか、いろいろな問題を解決していかなくてはなりませんし、大手のブランドさんとのかかわり、一方で独立系のクリエーターさんとのかかわり…そんな中で、いろいろな経験をしてきました。今日は、そんな経験から分かることを皆さんにお話しできたらと思っています。

 

*新進クリエーターのビジネスモデルの推移

『クリエータービジネスの流れ』

 

小川:
では、最初に新進クリエーターさんのビジネスモデルの流れについてお話ししてみたいと思います。
まず、新進クリエーターが自分の商品を売ろうとする場合、やはり一般的には、セレクトショップとかを主な販路とした「卸」からスタートします。それがやがて、ブランドとして認知されてくる。そうすると今度は、直営店出店のオファーがかかる。
それで、直営店を出店して運営する。つまりブランドのSPA化…製造小売…が実現するというわけです。これで初めて、クリエーターは「作って」から「売る」までを、一貫してブランドとして管理することになります。
「卸」から始めて、直営店出店まで…これが現在の典型的なクリエータービジネスのモデルということですね。

 

*卸ビジネスの現状

『セレクトショップの現状』

 

小川:
それでは、このビジネスモデルのそれぞれの段階での問題点や課題についてお話ししましょう。
まず、最初に「卸」の段階です。卸先として皆さんが普通に考えられるのは、やはりセレクトショップだと思います。そのセレクトショップなんですが、こういう業態ができてもう30年になるんですね。
繊研新聞で「あすのセレクト」という連載記事が先月からスタートしています。その記事の中で、「今のセレクトショップは、3割が仕入れで、残りの7割がオリジナルになっている。」と言っています。昔、チューブのデザイナーだった斉藤さんは、「小さなセレクトショップでさえも市場にないものを創りだそうとしなくなっている。」とコメントしています。つまり、今やセレクトショップがセレクトしていないという現状があるんですね。
さらにユナイテッドアローズの社長さんの「クリエーターはセレクトショップから見るとある期間のパートナーです。」という言葉も載っていました。
皆さんは、こういった現状をしっかり見つめておくことが大切です。セレクトショップといっても3割くらいしかセレクトしていない。そのセレクトショップが、本当にクリエーターの商売の相手となっているのかを見直す必要があります。クリエーターの皆さんにとって、セレクトショップが本当に自分の商品の主販路となるのかを疑ってみないといけないんですね。
それなら、皆さんはどこを足がかりとすればいいのか…? 本当にセレクトショップを最初の足がかりにしなくてはいけないのか…? 逆に言えば、皆さんが自分の商品を本当に扱ってほしいセレクトショップがあるのか、ということなんです。しかも、セレクトショップ側もみなさんとのお付き合いは、ある期間だけだと考えている。ユナイテッドアローズの社長さんがおっしゃるように、決して最後までのお付き合いではないわけです。大手のセレクトショップの方向性は、今やオリジナルで勝負ということなんですね。
さらに問題なのはクリエーターの使い捨て。中には、セレクトショップのオリジナルがクリエーターの企画をそのままパクッているなんてこともあります。

 

『イベントショップやネットを販路に…』

 

小川:
それで、セレクトショップだけに目を向けるのをやめてみると、意外に選択肢が拡がってるんですね。
例えば、イベントショップ。第一ステップとして考えるなら、セレクトショップではなくて、伊勢丹の解放区はとても有名ですけど、ああいう期間限定のクリエーターショップがあちこちで企画されていますから、そこから始めるのもいいでしょう。
さらにネット。ネットは今、とてもおもしろいと思うんですね。高島屋を退職したあと、ある赤文字系雑誌のオフィシャルサイトの運営会社からお声をかけていただいて、2ヶ月くらいお仕事させていただきました。それでいろいろ勉強したんですが、今、東京ガールズコレクションをしかけて、すごいことになっているゼイヴェルさん…大きな勢力になってますよね。赤文字系の雑誌モデルにお洋服を着せて、一般の消費者に見せる。あの入場料だけでもすごい。2万人は入りますからね。さらに、その場で携帯サイトからそのお洋服が買えてしまう。しかもその売上げが、何分間かのショーで2000万円とかの売上げになるんです。元フランドルの赤松さんがやっているジョイアスがここでデビューしたり、これはゼイヴェルの出資会社なんですけど…要は、洋服がネットでかなり売れるということなんですね。
しかも、ネットなら全国どこからでも買えるんですから…ずっと、“ネットで本当に洋服が売れるんだろうか?"って言われていましたけど、今や本当に売れる時代になってきている。
スタイライフというところがやっているネット通販会社は、セレクトショップと連携しているんです。最初は、通販雑誌だったのが、ネット通販を始めて、これに目をつけたのがサマンサタバサ。これからネットの世界はどんどんかわっていきます。ZOZO TOWNやスタイライフの仮想セレクトショップで販売してみませんか?とみなさんが誘われたら、これはとてもOKだと思います。
ただし、ネットも集客力の差がとても大きいので、ここのところは気をつけないといけないですね。楽天は大きいけど、楽天のお客さんはやはり値段でくるので、クリエーターの皆さんにとってはあまりいいお客さんは期待できないと思います。クリエーションにこだわったお客さんのくるサイトを選ばないとダメ。
それと、ネット通販が新しい販路として有望といっても、今のところ桁違いに売れるわけではなく、数百万円のオーダーという感じなので、過度の期待はしない方がいいと思うのですが、それでもやはりネットはNOではない。ネットの中で自分のクリエーションをきちんと表現できるところは必ずあると思います。

 

*卸先を拡げるためには

『クリエーター向け展示会の現状』

 

小川:
次に卸先を拡げるためには何をするか…?
やはり展示会ですね。
そこで新進クリエーター向け展示会の現状についてお話ししたいと思います。
新宿店のバイヤーをやっていた頃、展示会の案内はとてもたくさんもらっていました。
4月とかの時期になると、1日に15〜20の展示会が毎日あるんです。でも、大手セレクトや流通系のバイヤーは限られた人数しかいない。そこにすごい数の展示会の案内がくるわけです。そうするとバイヤー側が実際に行く、行かないは、自分たちで選択することになります。特に大手流通系のバイヤーは展示会に行っても、行かなくても給料は同じなわけで、“ま、どっちでもいいか"みたいな感じになりがち。本当に洋服が好きで、バイヤーという仕事が好きでという人でも、まわれる展示会は限られてくる。そんな中でやはり有力な合同展示会というのがあって、それをちゃんとおさえておく必要があると思います。

 

『繊研新聞系等の展示会』

 

小川: まずは繊研新聞系のIFFとPLUG IN。
IFFのクリエータービレッジには、必ずバイヤーは行きます。ここで何かやれば、皆さんのものがいいものであれば、必ず反応がある所と言っていいと思います。
もう一つのPLUG INについては1回目はちょっとひどかったけど、この10月に「EBISU303」で開催されて、とても良くなっていました。少しこじんまりとした展示会だけど、これから伸びていくと期待できるものです。
合同展示会として注目されているのはrooms。東京タワー時代は良かったという人も多いんですけど、今は代々木体育館で規模も大きくなって、そういう意味では玉石混交になっている。以前は本当にこじんまりとして、roomsなら、ハズレはないという感じだったんですけどね…。次回からは六本木ヒルズに会場を移すということですので、これからどうなっていくかは未知数ですね。今回からroomsと連携したUNDERも今後どうなっていくか…?という感じ。

 

『独立系展示会』

 

小川:
さらに荒木さんのやっているambianceがあります。これは独立系の展示会の老舗的存在になっているけど、最近はメンバーの入れ替わりが少なくて、新しいもの、刺激的なものが見つかりにくいっていうイメージがあります。
独立系でイコールとマニコレは、同じ建物の上と下の階でやっていて、お客さんは両方見ることができるので、結構たくさんの人が来ていました。
アトラクションズや明白なコンセプトをもっているガールズなどの展示会は、そのコンセプトによってお客さんもはっきりと目的をもってきているので、そのコンセプトにあうものなら出しやすいと思います。
今挙げたのはほんのごく一部で、とりあえず展示会はいっぱいあるので、問題はその展示会にみなさんの意図する販路のバイヤーが来るかどうかという点ですね。いくら出展しても、目的のショップのバイヤーが来なくては何にもならないし、かといって、大きな展示会ならいいかというと、大きな展示会ではたくさんの出展者の中に埋もれてしまう可能性も大きい。今は、独立系のクリエーターのつくるものが似てきていて“こんなの見たことない"というものを見たくて展示会に行っても、ワンルックスでいいからすごいものを見たいと思ってもなかなか見つからないんです。ブランドの数も多くて、ものをつくっている人も多くなっているので、そこではMDがいいという理由で目がとまるのではなく、“この商品はいいね。"“このワンルックスがいいよ。"ってところから入ってくるんですね。だれも作っていない、見たことのないものがワンルックスでもいいから作れるところからブランドの認知はスタートするんです。

 

*ブランドとして認知される

『ランウェイショウ』

 

小川:
ブランドとして認知されるためには、普通はランウェイショウから入ります。でも今は、若いデザイナーはランウェイショウをやらなくなっていますね。先日のWWDに載っていたアンリアレイジ。26歳のデザイナーなんですけど、最初はアンテナという展示会で、ラック2本から始めたんです。
それで、数年前にランウェイショウをやって、東京タワーでもショウをやった。
今シーズンはアルファベットをモチーフにした服を作って、今、本当に注目されている。彼は、王道であるランウェイショウをコツコツとやってきて、それで認められているわけです。
ランウェイをやると、映像と写真が残ります。これがとても意味を持つんですね。展示会の案内にこれを同封したり、小売の側からしても売場でプレゼンできるのでとても有効なんです。ランウェイの意味は見直されるべきだと思ってます。ある東コレブランドの社長さんも同じようなことを言っています。ランウェイの映像をヨーロッパのショウルームとかでバイヤーに見せていくと、とても効果的なんだそうです。実際にそれがきっかけで、ヨーロッパでの販売が始まったそうです。

 

『卸先とのかかわり』

 

小川: さらにブランドとして認知されるためには、卸先とのかかわりが大切です。卸先がちゃんとブランドとして扱ってくれていれば、こういう取引先を大切にしていくことによって、そのお店のお客さんから認知が広がっていきます。だから卸先のセレクトショップで、自分の商品がちゃんとブランドとして扱われているかどうかを確認しないとダメです。なにか、刺身のツマのように扱われているのでは全然ダメ。卸先で皆さんの商品がどういうふうに扱われているのか…ちゃんとブランドを理解して扱ってくれているのか。たとえ東京でなくても、しっかりやってくれるところはメリットがあります。こういう卸先があれば成功例として、他の卸先にも説得力のある事例になります。やはりブランドとして認知されることにこだわるなら、売場でブランドがどう扱われているかはとても大切です。

 

『メディアを利用する』

 

小川: もう一つ、メディアの利用というのがあります。メディアではワンルックスでインパクトのあるものが広がっていきます。
例えば、ここにあるニニータというブランド。スタイリストがデザインしているブランドなんですけど、スタイリストとして深田恭子さんとか宮崎あおいさんとかの有名な女優さんをいっぱい手掛けているんです。それで、スタイリストの特権として、こういう女優さんに自分のブランドを着せたりするし、女優さんの方も自分から着たいと言って着てくれたりもする。そうすると女優さんが着ているブランドということでお客さんの目にもとまるわけです。こういうことを利用していくことも大切。
もうひとつヘリオトロープ・クリュティエというブランドがあります。実家が縫製工場でおじいさんはテーラー。とっても生真面目できれいなお洋服を作っています。買ってくれたお客さんからの評価は高い…でもあまり知られていない。私は一度、このデザイナーにアキバ系のメイド喫茶用に本物のメイド服を作ってみてはどうかと勧めたことがあります。こういう作りのお洋服はユニフォーム的なものに向いている。それで本物のメイド服を作って、話題のメイド喫茶で着てもらって、そうしたらメディアに露出することは確実というので勧めたんですけどね。私は本気だったんだけど…。
いずれにしろ、私のブランドはこんなブランドなんですというコンセプトを出していく必要がある。どういうものならメディアの人は注目するのかを考えて、それがきっかけでたくさんの人に知ってもらうことができるんです。

 

*直営店の出店オファーがあったら

『本当に直営店が必要か?』

 

小川:
展示会をしっかり選んで、卸先ともうまくいって、ブランドとして認知もされてきました。そこで、いよいよ直営店の出店オファーがあったらどうするか?
ここで、まず、本当に直営店が必要かを立ち止まって考えることです。他のブランドが与えられないものをお客様に与えられるから“ブランド"なんです。
では、そのために直営店は必要なのか…をしっかりと考えてみてください。皆さん方でないとできないやり方でお客様を喜ばせること、喜ばせ続けることがゴールであって、直営店のオープンがゴールではないはずです。
すばらしいお店、ブランドの世界観もいい…けれど、お店のスタッフがこれをちゃんと伝えてくれるだろうか? 直営店では、ものづくりのみに集中していられません。クリエーションにかける時間以外に、スタッフの人間関係、お店のお客さんとの関係、お金のこと…いっぱいやらなくてはならないことがあります。しかも直営店なら一定の量の商品が必要になってきますから、作りたくないものも作らなくてはならなくなったりする。ブランドとして表現したいがための直営店なのに、作りたくないものを作ったりしてまで直営店が必要なのか?もう一度考えてみてください。

 

『バイヤーや開発担当者の本音・本気度』

 

小川: さらに出店オファーをしてきたバイヤーや開発担当者の本音を測ることも必要です。バイヤーや開発担当者が直営店出店をもちかけるときには、もちろん本音として本当に皆さんのブランドに“ほれている"時もあるけど、そうでない時もある。10軒やって1軒ものになればいいなんて考え方もあるし、ろくに商品も見ずに「メディアで大きく取り上げられたから」とか「ライバルに出遅れないために」とかいった理由でオファーしてくることもあります。ここで相手の本気度を判断する必要があるんですね。
相手の本気度を測る方法。それは、いろいろつっこんだら相手に嫌われるんじゃないかなんて思わずに、“私のブランドのどこを見ていいと思ったんですか?"“いつごろからうちを注目してくださってたんですか?"“私のブランドのお店をどんなゾーンでどういうふうに作っていきたいと思っているんですか?"と、どんどんつっこんでいくと、本気の担当者ならちゃんと答えてきます。場合によっては、本気でほれていても「誤解」している部分もあるかもしれないので、やはり、きちんと聞いて、本気度を見極めると同時に、誤解のないようにしておいた方がいい。この業界はビジネスなんだけど、契約書を正式に取り交わすタイミングはとても遅いので、お互いに誤解したまま走ってしまうことのないように、しっかり相手に質問をぶつけてみることが大切です。
さらに百貨店ではショップインショップの出店条件として、床、天井、壁といった動かないものを工事すると、それは百貨店側の資産となってしまう。それで、百貨店側がこういう床、天井、壁をうちの方でやりますと言ったら、これはもう本気と考えていい。フローリングの床にしたいんですと言って、これを「OKです。うちの方でやります。」と言ったら、これはかなり本気です。逆に床、壁、天井はそのままで、什器だけをブランドイメージで作ってきてください、という場合は、半年で切れるという前提の話と思ってください。ただ、それでも自信があってチャンスだと思えば、乗ればいい。半年で切れる前提で、そこで勝負することももちろんできると思います。

 

*決断する

『条件は? 準備は?』

 

小川:
そして、決断する段階にきます。
この際、テナント出店なら売れても売れなくても、毎月賃料が必要になってきます。一方、消化仕入契約なら売上げの○%ということになるので、売れなかったときでも一定の収入はあります。ただし、消化仕入契約でも最低売上げの条件は決められていますが。
それと比較するとテナント出店はリスクがかなり高いと言えます。
さらに皆さんの側の準備は整っているか?百貨店とかの大きなところに出店するには法人化されていないと難しいと思います。個人でやっていると、商品がいいとか悪いとかではなくて、会社の中で上の方に書類が上がったときに、「本当に大丈夫なのか?」ということになる。会社の上の方とか経理サイドは全て書類のみで判断するわけですから、個人ではかなり難しいです。さらに資金調達についても、銀行からお金を借りるには少なくとも2期分の実績が必要になってきます。つまり1年と1ヶ月は法人としてやらないとダメ。とにかく、皆さんが将来的に集客力のある館や会社とつきあっていこうという気があるなら、法人化は必要な条件ということになります。

 

『最大の難関「人」』

 

小川: そして最大の難関は「人」です。そのブランドの全てを体現するショップスタッフ。これが最低でも3人〜5人は必要になってきます。この人たちを雇用するわけで、このリスクは大きい。
いずれにしても直営店出店が「あがり」ではない。ブランドをやる以上、直営店で、お客様に自分でなくてはできないものを提供していくことが目標のはずなので、そのためにビジネスを自分でしっかりと見つめながらやっていかなくてはいけないということをしっかり考えてほしいと思います。

 

*事例研究:鉄道系人気ファッションビルのチャレンジショップに出店したあるブランドのケース

 

小川:
では、お話の最後に、実際に鉄道系人気ファッションビルのチャレンジショップに出店したあるブランドのケースについてケーススタディということでお話ししたいと思います。
ある日、このブランドのデザイナーから「人気ファッションビルからお店を出さないかと言われて、迷ってるんだけど、自分としては出したいって思ってるんで、手伝ってほしいんだけど…」という相談を受けました。
もうこの時点でその方は出店をほとんど決断していたんですけどね。2005年9月にこの出店オファーはありました。ここから2006年3月のオープンに向けて、出店準備が始まりました。

2005年 9月  出店オファー
2005年 10月  生産計画の修正
(展開計画作成)
店舗スタッフ雇用の検討
まず、10月には展示会での生産計画の修正をかけました。これは直営店用の商品を上乗せするための修正です。その上で展開計画をたてて、1年間、ブランドオンリーでお客様に提案していくことができるのかを検討しました。同時に店舗スタッフの雇用についても検討して、これらの目途がたったところで、10月中に出店の意向を相手方に伝えました。

出店条件
・床は共通の床。ただし、その上に何かを敷くことは可能。
・什器については作って持ち込むこと。
・消化取引契約(掛率はかなり優遇されていた。)
・月2回の締めで支払い。
ということで、出店条件はかなりいいものでした。特に月2回、15日ごとに支払いがあるというのはとても魅力的でした。(通常、百貨店は30日サイト)

2005年 11月  売場図面打合せスタート
スタッフ募集開始
11月になると、お客様の動線とかを考えて、売場展開をして、売場図面の打合せを開始しました。棚をどうするか、高さはどれくらいにするか、資金的にはどうなるか…などなど、いろいろな検討が必要で、もちろん相手の言ってきたままにお願いしてしまえば簡単なんですが、やっぱり初めてのお店ということで、思い入れもあって…ということで、結構時間がかかりました。確か1ヶ月では終わらなかったと思います。さらに、この時期からスタッフの募集も開始しました。

2005年 12月  売場図面の確定
資金計画の確定
出店時にこれくらいショートしそうなので、余力はありますか?という確認も含めて、資金計画を確定しました。

2006年 1月  備品手配
ショッパー、キャッシャー、ハンガーなどの備品の手配です。結構、直前にハンガーを忘れてたなんてあわてたり。うちの店でも備品の手配があと1日遅かったら、相手がお盆休みに入ってしまうところだったなんてこともありました。

2006年 2月  スタッフ面接・教育
施工開始
引渡し
納品
スタッフにはやはり一定期間の教育が必要となってきますので、2月には面接をして教育を開始しました。
こうして無事に2006年3月にオープンの日を迎えることができました。
以上のような流れで、直営店オープンまでには本当にたくさんのことが出てきます。クリエーターはもちろんものを作る能力は持っているのですが、直営店をやるにはこうした能力だけでは足りないのです。

直営店経営のために必要とされる能力
・売場フェイスを管理する力
・MDを計画する力(商品化までの)
→1年53週、自らの商品で売場をうめていくことが必要。しかも、ファッションはずっと同じ売場では飽きられてしまうので、「今月はどう展開するか」といったビジョンが必要とされる。
・人をマネジメントする力
・資金管理する力
直営店を経営するためには、こうした能力が必要になってきます。さらに、こうしたことのかたわらで、ものづくりをして展示会もやっていく。これでないと直営店はできないわけです。

 

*まとめにかえて

 

小川:
みなさんには、自分のクリエータービジネスのゴールはどこか、しっかりと考えてほしい。それでも直営店は夢。直営店に向かって、明確な地図が描けているなら、それに向けて計画を立てていくことが必要です。
誰もが憧れるコムデギャルソンの川久保伶さんは、クリエーターとして優れていると同時にビジネスにもきわめて優れた人だと思います。
皆さんもブランドの設計図を引いて、いつから準備していかなくてはいけないのか、具体的、現実的なお話として考えてほしいと思います。
最後に、皆さんが実際に直営店をやってくれと言われて、どうしようということになった時には、いつでも相談にのりますから声をかけてください。
ということで、お話はここまでにして、何か質問とかあれば、お聞きします。

 

*Q & A

 

Q:

服を作るのにアート性を重視するところと、完成度を重視するところがあると思うんですけど、どちらを重視されますか?

 

小川: 場合によると思います。デパートとかでも場所によって違ってきますよね。それは求められているものが違うからで、お店が競合している所ではお客さんをびっくりさせて惹きつけるためにアート性を重視することもあります。
通常、大手の百貨店やセレクトショップでは、やはり着心地ということを求めて完成度に重点がおかれることになります。
ただ、独立系のデザイナーの場合は、大手アパレルではできないものを求められているので、少なくとも、アート性、完成度のどちらかで大手のものに勝っていないとダメ。大手では、ここまで手をかけての完成度はとても無理、ただし手作業だから数は作れませんよ…とか、大手ではここまでの冒険はできないけど、自分はデザイナーとしてやはり自分の好きなものをとことん追求して作っていく…というようなものが皆さんの場合、必要なんだと思います。

 

Q: 資金的にどれくらいあれば、お店はできるのでしょうか?

 

小川: このnara storeの場合、資本金500万円+銀行融資600万円です。これで、売れていればやっていけるんですけど、なかなか売れていないので、自己資金を取り崩して…なんてとこですね。うちの場合、商品を掛け率50〜55%で仕入れているので、結構大変なんですけどね。
皆さんの場合は、原価率30%くらいになると思うので、これくらいのお店なら、いろいろ削れば、600〜700万円くらいあれば出店できると思います。
最初にかかるのは10ヶ月分の保証金+家賃と施工費。10坪程度のお店なら、家賃がこのあたりで2万円/坪に、施工費が25〜30万円/坪くらいと考えて、家賃が20万円、保証金と手数料とかで約240万円、施工費が250万円で、500万円くらいあれば、カラの箱が手に入ります。ここに商品を作って入れて、500万円の上代の商品を入れるとして、原価150万円、これに人件費とかが必要になってくると、やはり600万円〜700万円くらいの計算になりますね。

 

*感想

 

・とても勉強になりました。
・自分自身、今、ゴールがよく分からないところにいる。何を持って成功というのか、迷っていたので、今日のお話しで少し分かったような気がします。
・今日は、本当に聞きたかったことが聞けて、とても参考になりました。
・ものづくりを始めてまだ日が浅い。まだまだ迷うところがあって、今日のお話はとても勉強になりました。
・JCで展示会に出して、今はオートクチュールのオーダーのアトリエにいます。いつか自分のものをどこかにおいてもらったりしたいと思っている。ただ、お店を出すと、自分のものづくりができなくなりそうなので、自分としては「ものづくり」が好き…というところで考えていきたい。自分のものをおいてもらうにはどうしたらいいのか、今日のお話は具体的によく分かって参考になりました。
・まだ始めたばかりで、何から始めたらいいのか分からなくて、動けなかったので、今日は勉強になりました。
・展示会ではバイヤーさんととても緊張しながらお話ししていたけど、今日のお話を聞いて、バイヤーさんの本音も少し分かって、これからは少しくつろいだ気分でお話しできるような気がします。
・バイヤー視線からのお話がとても参考になりました。
・普段から悩んでいた先のことについてのお話が聞けて、本当に参考になりました。

 

*最後に…

 

Q: 小川さんが何で高島屋を辞めて、このお店を始められたのか…ずっと不思議に思っているのですが…。

 

小川:
高島屋では、ここに商品をおいてあるデザイナーさんたちとお仕事をしました。
こういうデザイナーさんたちは、個人事業主だったり、2〜3人でやってる小さな会社だったりするんですね。
そういう人たちと出会って、すごい刺激を受けました。
それで、こういう人たちが作り出すものを、もっとたくさんの人に知ってもらいたいって思ったんです。でも、高島屋という大きな組織の中で、高島屋のお金を使ってやっている自分…。作っている人たちは、文字通り「命がけ」で作っているのに、売る方が中途半端。これでは、この人たちとしっかりと向き合えない。高島屋のお金ではなく、自分のお金で買ってこそ、初めて遠慮なく良い悪いも言うことができる。ちょっとカッコつけて言うと、いっぱいいい服作って、がんばっている人たちがいる、命がけで作っている人たちがいる、だから、命がけで売る人もいる…って感じです。
ありがとうございました。

 

No.1No.2No.3No.4No.5No.6|No.7|